メンブレン耐火被覆のポイントは、被覆の連続性を確保すること

準耐火構造や耐火構造によるイ準耐火建築物や耐火建築物では、室内から木造躯体が見えないように、壁や床・屋根の耐火被覆を連続させることにより、火災時の木造躯体の燃焼開始時間を遅くして、建物の防耐火性能を確保しています。このように耐火被覆を連続させて、個別に柱や梁、枠材等を耐火被覆しない手法を「メンブレン耐火被覆」と呼びます。メンブレンとは、日本語に訳すと、「薄い膜」という意味であり、特に木造建築では、軸組工法、枠組壁工法を問わずよく使われる手法です。


▲準耐火建築物におけるメンブレン工法による防火被覆の概念図(断面図、軸組工法の場合)
※「ファイヤーストップ」という用語については、金属製軒裏換気口として商標登録された商品があるので混同しないようご注意ください。
出典:「木造建築物の防・耐火設計マニュアル―大規模木造を中心として―」一般財団法人 日本建築センター発刊

準耐火建築物や耐火建築物というと、準防火地域内の3階建て住宅(準耐火建築物等)、防火地域内の住宅や共同住宅、事務所等(耐火建築物等)、防火地域以外の木造3階建て共同住宅や学校(1時間準耐火建築物)などが該当します。建物利用者の避難安全性(建築基準法第27条)や、周辺建物への影響を減らすための建物の倒壊抑制性(法第21条)、建物間の延焼抑制性(法第61条)を有する、「火事に負けない木造建築物」の代名詞と言えます。

ただ、このメンブレン耐火被覆を使って、準耐火建築物や耐火建築物を建築する際には、現場において、給排水配管や照明・電気設備等が耐火被覆を貫通・欠損したり、窓や室内建具を設ける際には準耐火構造・耐火構造の壁を切り取ることになります。これらは建築行為としては当たり前のことですが、メンブレン耐火被覆にとっては、耐火被覆に孔(開口)が空くため、その部分が、木造躯体の燃焼開始時間を早め、防火上の弱点になる可能性が出てきます。すなわち、「メンブレン耐火被覆に孔(開口)をあけるとそのままでは防耐火性能が低下するおそれがあるので必ず防火措置を行う」ことが重要となるわけです。

給排水配管や照明・電気設備はどのように施工すれば安全か

国立研究開発法人建築研究所が監修した、一般財団法人日本建築センター発刊の「木造建築物の防・耐火設計マニュアル〜大規模木造を中心として〜」には、準耐火構造や耐火構造の壁・床・屋根の耐火被覆を切欠く際の防耐火上の防火措置が丁寧に記載されています。これらは、国土交通省や防耐火の専門家らが加熱実験等で検証した内容であり、このマニュアル通りの措置をすることで、メンブレン耐火被覆に防耐火上の弱点をつくらない施工が可能となります。

さらに、このマニュアルには、マニュアルに記載された手法以外にも、各企業や団体等が個別に加熱実験等で、準耐火構造や耐火構造の要求性能を低下させないことを確認した仕様については、その仕様としてもよいとされています。マニュアルは一例を示したものであり、より使い易く、同等以上の安全性が確認された仕様も技術開発しだいで実用化できる仕組みがあるわけです。

 

少し具体的にマニュアルの内容を見てみると準耐火構造では、コンセント・スイッチや埋込照明機器では、①裏ボックスや照明本体が鋼製でできていること、②裏ボックスや照明本体の裏側に、耐火被覆の欠損面積に応じた厚さの不燃系の断熱材(グラスウールやロックウール等)を敷き込むことが記載されています。これにより、メンブレン耐火被覆と同等の燃え抜け防止性能を確保できると理解ができます。


▲埋め込み照明の納まり例
出典:「木造建築物の防・耐火設計マニュアル―大規模木造を中心として―」一般財団法人 日本建築センター発刊


▲コンセント・スイッチボックス廻りの納まり例
出典:「木造建築物の防・耐火設計マニュアル―大規模木造を中心として―」一般財団法人 日本建築センター発刊

その他にも、マニュアルには給排水管や窓・室内建具と取り付ける際の防耐火上の措置の一例が記載されていますので、準耐火建築物や耐火建築物を建築される場合にはご参照されることをお奨めします。

点検口も防火被覆の弱点になり得る部位

準耐火建築物や耐火建築物は、防耐火性能の高い建築物であることは間違いありませんが、防耐火性以外にも、耐震性、遮音性、耐久性、省エネルギー性など必要な性能はたくさんあります。これら建物に必要とされる性能のうち、木造では鉄骨造、鉄筋コンクリート造と比較して、特に耐久性に配慮が必要とされています。それは、木材が有機材料であり、定期的な点検が必要なためです。さらに近年、技術の進歩とともに、天井や壁に埋め込まれる設備機器の数が増え、ものによってはサイズも大きくなってきているように感じます。すなわち、メンブレン耐火被覆に孔(開口)を設ける機会や、天井内・壁体内を点検する機会が、益々増えてくると予想されます。

たとえば、天井や床・壁に設ける点検口はそのひとつと考えられます。隠蔽される部分を容易にメンテナンスするためには欠かせない部材と考えられますが、これら点検口の多くは、フレームにアルミが主材料として使われています。ただ、アルミは金属の中では軟化点が低いために、火災時に溶解する時間が鉄やステンレスに比べて早くなる傾向があります。近年のアルミや樹脂を使った防火窓(20分間の遮炎性を有する防火設備)が、鉄や火災時に膨張する加熱発泡材で変形や隙間を補強することで、所定の性能を確保していることからも容易に想像がつきます。このように、建築物の性能が高度になればなるほど、今まで想定しなかった、メンブレン耐火被覆の孔開けや欠損が生じる可能性があるので、火災時に耐火被覆の欠損部にどのような防火上の課題があるかをしっかりと把握して、その弱点を克服する商品の登場が期待されています。

アルミ製天井点検口例(城東テクノ製)